『栄養 Trends of Nutrition』抄録ライブラリ

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栄養 Vol.37 No.4

  • 末廣 篤
  • 古川健司
  • 竹島美香
  • 利光久美子
  • 園川佐絵子
  • 天野晃滋

頭頸部がんと栄養療法

末廣 篤
京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科
  頭頸部がん患者では、食物の通過経路の入口にあたる領域に病変が発生するため、早期より経口摂取が制限されていることが多く、治療開始前にすでに悪液質に分類されてしまう患者も少なくない。口腔・咽頭の形態を大きく変化させるような外科的治療、あるいは口腔・咽頭に高度の粘膜炎や唾液分泌低下を来す化学放射線療法は、栄養素の摂取能力をさらに低下させ、がん治療の完遂を妨げることもある。したがって、頭頸部がんの治療においては、がんに対する治療だけでなく、低栄養状態の改善と良好な栄養状態の維持を同時並行で進めることが不可欠である。そこで我々の施設では、頭頸部がん患者のみを対象とする栄養介入チームを立ち上げ、継続的な栄養介入を行っている。頭頸部外科医がチームの中心を担っているため、治療のphaseによって日々変化する嚥下機能に応じた栄養の投与法と投与内容の決定にリアルタイムで介入することが可能である。
  • 頭頸部がん
  • 栄養管理
  • 周術期
  • 化学療法
  • 放射線療法

がんとケトン食療法「: がん免疫栄養ケトン食療法」

古川健司
医療法人杉原クリニック 院長
がん細胞では、グルコースから乳酸が作られ、好気的呼吸と嫌気的呼吸(解糖)の両方が使われ、さらに、好気的条件でも解糖系の抑制がかからないというWarburg 効果1)は、正常細胞とは大きく異なる性質の1つとされてきた。また、がん細胞が増殖するには、細胞内へのブドウ糖の取り込みを行うグルコース・トランスポーター(GLUT)という蛋白質を増やし、莫大なエネルギー産生と核酸や細胞膜の合成が必要であるため、がんの栄養療法としては、ケトン食(糖質制限)が有効となる可能性がある。
  • がん
  • ケトン食
  • 免疫栄養療法
  • 免疫栄養ケトン食
  • 糖質制限
  • 中鎖脂肪酸

高齢がん患者に対する栄養療法

竹島美香
 
利光久美子
愛媛大学医学部附属病院 栄養部
 高齢者は、一般的に加齢による身体的機能や認知機能の低下が見られ、さらに複数の疾患を併存していることが多いため、栄養障害に陥りやすい。高齢がん患者になると、加齢による影響に加えて、がん悪液質による代謝異常が加わることによって、若年患者と比べて容易に栄養障害をきたし易い。また、いったん栄養障害に陥ると、その回復は非常に困難となってくる。体重減少などの栄養障害は、術後の合併症や有害事象の発生率を増加させるなど、予後にも影響を及ぼすとされていることからも、がん悪液質の病態と栄養状態に影響しうる高齢者の特性を十分把握した上で、個々の高齢がん患者に即した栄養療法を行い、高齢者が抱えるさまざまな問題も認識しながら、栄養サポートを行っていくことが重要である。
  • 高齢者
  • がん悪液質
  • 体重減少
  • 栄養療法
  • 栄養サポート

緩和ケアにおける進行がん患者の栄養療法についての考え方

園川佐絵子
天野晃滋
国立がん研究センター東病院 緩和医療科
  緩和ケアにおける進行がん患者の栄養療法は、この領域での医学的妥当性の検証が十分ではないため、いまだに確立されていない。近年の欧米の診療ガイドラインでは予後の限られたがん患者への積極的な栄養療法は推奨されていないが、いずれの推奨も根拠となるエビデンスレベルは高くない。ところがこの集団における栄養療法の効果を検討した最新の研究では、緩和ケア領域でも適切に患者を選定し状態にあった栄養管理をすれば生存期間を延長させることが示唆された。栄養療法は医療の一環であり医学的妥当性に基づく判断が第一であるが、実際には患者と家族の価値観・死生観など個々の思いが栄養療法についての意思決定に影響し、患者と家族の認識と苦悩を理解し対応することはpatient- and family-centered care の観点で倫理的に重要である。今後、緩和ケアにおける進行がん患者の栄養療養についての医学的妥当性の検証と、患者と家族それぞれの思いにそった栄養療法についての倫理的妥当性の検討が求められる。
  • 緩和ケア
  • 進行がん
  • 栄養療養
  • エビデンス

栄養 Vol.37 No.3

「食事療法のエビデンスⅡ」

  • 山田貴史
  • 福井道明
  • 田中紀子
  • 斎藤恵子
  • 長堀正和

認知症と栄養

山田貴史
名古屋経済大学 人間生活科学部 管理栄養科学科 教授
 認知症は、様々な機序により発症し、脳の持つ多くの機能性から、多様な症状が観察される。加えて、その治療についても根治が難しい。近年、認知症に関する大規模な臨床研究や基礎研究が盛んにおこなわれ、非常に多くの研究報告が蓄積されてきた。これにより、認知症の発症機序や治療のターゲット候補因子の解明が大きく進んだと考える。いくつかの認知症の発症原因は、血流や血液成分の異常など、脳の周辺環境の変化、異常により引き起こされるとされるが、アルツハイマー型認知症のような進行性認知症は、症状がみられるよりも非常に早い時期から脳たんぱく質の変化が観察される場合、あるいは、脳組織がアルツハイマー型認知症の病変パターンであるにも関わらず、症状がでない場合もあり、その発症メカニズムを明らかにし、根治を目指すのは未だ困難である。認知症に対する栄養管理は、脳活動を維持するためバランスの取れた食事、認知症の病因のひとつである血行障害の予防を目的とした食事管理が重要となるが、近年の研究では、特定の栄養素の供給により認知機能の維持改善報告がある。このような栄養成分に関する研究がさらに進むことによって、療養食を適切に利用することで、認知症の予防、改善につながることが期待される。
  • 認知症
  • アルツハイマー型認知症
  • ケトジェニックダイエット
  • 脂肪酸
  • 腸内細菌叢

2型糖尿病における食事療法

福井道明
京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌代謝内科学
 日本における2 型糖尿病患者の増加は,生活習慣の変化に起因している。糖尿病の病態改善のためには、肥満の是正が重要である。そのためには、総エネルギーの適正化を中心とする生活習慣の是正が重要であり、体重の減少に伴って糖尿病の発症リスクは低減する。一方、高齢者糖尿病では過栄養だけでなく、サルコペニア、フレイル、低栄養を考慮した食事療法を行う必要がある。糖尿病患者における最適な食事療法とは、適正なエネルギー量で、栄養バランスがよく、規則正しい食事を実践し、合併症の発症または進展の抑制をはかれる食事療法を実践することである。食習慣、時間栄養学も考慮した食事療法を推奨する。また長期にわたる継続を可能にするためには、安全性とともに我が国の食文化あるいは患者の嗜好性に対する配慮も必要と考える。
  • 2型糖尿病
  • 食事療法
  • エネルギー摂取量
  • 三大栄養素
  • サルコペニア

先天性心疾患の栄養療法

田中紀子
神奈川県立こども医療センター 栄養管理科
 先天性心疾患の出生率は1.4%と言われているが、医療技術の進歩により成人期を迎える患者が増えている。手術を新生児期、乳児期から行うこともあり2 歳までの栄養を充足することが難しい児もいる。しかし、術前・術後の栄養管理により入院期間の短縮やその後の成長発達を改善することが報告されてきた。チアノーゼ、心不全、肺高血圧の状態の程度を医師に確認し、早期に栄養アセスメントを行い、合併症含め栄養ケアを提供する必要がある。低栄養と発育不良の要因として、エネルギー必要量の増大、哺乳低下による摂取量低下、染色体異常や術後長期呼吸器管理による摂食機能獲得不全、消化管の吸収障害、栄養素の損失や利用率低下が挙げられる。術後の乳び胸や遠隔期合併症の蛋白漏出性胃腸症では、脂質管理が重要となる。心機能のフォローアップに加えて、定期的な発達評価が推奨され、栄養ケアにおいても、拒食、偏食に対し個人の特性を考慮して関わる必要がある。成人期に移行できるよう自立支援のケアは児に関わる全てのスタッフにそのスキルが求められる。
  • 先天性心疾患
  • 栄養
  • チアノーゼ
  • 心不全
  • 成長発達

炎症性腸疾患と食事療法

斎藤恵子
東京医科歯科大学病院 臨床栄養部
長堀正和
東京医科歯科大学病院 消化器内科
 クローン病と潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患に分類されるが、両疾患とも低栄養のリスクが高いため、疾患及び、病変部位や進行度、活動性、合併症などの病態を考慮した栄養・食事療法が望まれる。この章では、両疾患の栄養障害の特徴、栄養療法の意義や栄養量の違いなどについて概説する。
  • クローン病
  • 潰瘍性大腸炎
  • 栄養障害
  • 脂質
  • 食物繊維

栄養 Vol.37 No.2

「食事療法のエビデンス」

  • 谷樹昌
  • 池内智之
  • 山本絵里
  • 津田 徹
  • 府川則子
  • 湯村和子
  • 菅原詩緒理

脳心血管疾患と食事療法

谷 樹昌
日本大学病院 健診センター長/ 循環器内科診療教授
 脳心血管疾患を予防するための食事療法のポイントは血圧、糖代謝、及び脂質代謝を良好に管理し、高血圧症、糖尿病、及び、脂質代謝異常症を予防、あるいは悪化させないことに尽きる。すなわち、肉類を食べる場合は、なるべく脂肪の少ない部位の肉を選び、脂肪の多い加工肉は控え、タンパク質は大豆食品、魚から摂る。野菜や果物を積極的に摂る。スナックなどの超加工食品は控える。食物繊維などが豊富に含まれる全粒穀物や、全粒穀物が使われている食品を選択する。アルコールは控えめにする。食用油は動物性脂肪や、トランス脂肪酸が含まれるものは避ける。塩分の少ない食品を選ぶ。世界に冠たる脳心血管疾患の予防食であるThe Japan Dietは以上のことをすべて集約した優れた食事内容である。しかしながら、日本人が日常の食生活で摂っている食事は塩分が多いので注意が必要である。
  • 脳心血管疾患
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 脂質代謝異常
  • The Japan Diet

呼吸器疾患と食事療法

池内智之
山本絵里
津田 徹
霧ヶ丘つだ病院
慢性の呼吸器疾患患者は、継続する炎症と呼吸に要する安静時エネルギー消費量増大のため、エネルギーインバランスに陥っている。このため、体重減少のみならず、骨格筋の減少を伴うサルコペニアやフレイルを合併する。体重減少や骨格筋の減少は、肺機能やその他の因子と独立した予後決定因子であり、栄養評価と介入は各国のガイドラインでも重視されている。日本のCOPDガイドラインでも非薬物療法の位置づけとして、初期の段階から栄養介入を行うよう記載されている。本稿では日本に推定530万人いるとされているCOPD患者を中心に、栄養障害の問題点、評価方法、介入方法について述べる。
  • 呼吸器
  • 体重
  • 栄養評価
  • 栄養指導
  • 食事方法

腎疾患の進歩と今後の栄養介入

府川則子 
女子栄養大学 栄養学部 栄養食事療法学研究室
湯村和子
東北医科薬科大学病院 腎臓内分泌内科
 腎疾患というと、特別な病気のイメージがあるが、決してそうではない。腎臓の加齢に伴う腎機能低下は動脈硬化を伴った腎硬化症といわれる病態で加齢性腎疾患として注目さるようになった。栄養という観点からすると腎臓の老廃物処理の負担を軽減する目的で、過度にたんぱく質を摂ってはいけないという過去の研究結果があり、食事療法では減塩とともにたんぱく質摂取量についての栄養指導が広く行われてきた。近年の多くの疾患領域での治療の進歩は著しく、腎疾患領域も例外ではない。さらに、我が国では65歳以上の高齢化率が年々上昇し2021年29.1%になり超高齢社会となっている。この様な社会的・医療的背景において、腎疾患の構造も変化し、加齢性疾患に対する医療提供のあり方がクローズアップされてきた。高齢者ではサルコペニア・フレイルが問題になり、さらに腎疾患周辺の治療も進歩し、従来行われてきた慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)に対する食事療法は、時代の流れに合った方向にギアチェンジしなければならない。
  • 慢性腎臓病(CKD)
  • 慢性糖尿病(DKD)
  • 腎硬化症
  • フレイル
  • たんぱく質摂取

NAFLD/NASHの発症と進行に係る栄養食事療法の実状

菅原詩緒理
仙台白百合女子大学 人間学部 健康栄養学科
 非アルコール性脂肪肝炎(NASH:nonalcoholic steatohepatitis)は、アルコール摂取がない、あるいは少ないにも関わらずアルコール性肝障害に類似した病理組織を呈する脂肪肝で肝細胞障害を伴い線維化が進行して肝硬変や肝癌を発症する新たな疾患である。さらに、包括的な疾患である非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)が提唱されて35年が経過している。NAFLD の治療は、いまだに減量を目標とした食事療法と運動療法が主体であり、総エネルギー摂取量を30kcal/kg/日程度として炭水化物のエネルギー比率を50 ~ 60%とし、脂質のエネルギー比率を20 ~ 25%に制限することとガイドラインに示されている。今後、栄養学的研究による解明が期待されるが、栄養に関してはさまざまな興味深い報告があり本稿では、その内容を解説する。さらに近年では、非肥満NAFLDやサルコペニア肥満も注目されており、その関連も明示した。
  • 非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)
  • 非アルコール性脂肪肝炎(NASH:nonalcoholicsteatohepatitis)
  • 栄養食事療法
  • 非肥満NAFLD
  • サルコペニア肥満

栄養 Vol.37 No.1

「移植医療と栄養」

  • 坂本陽子
  • 大谷朋仁
  • 坂田泰史
  • 海道利実
  • 吉川美喜子
  • 金 成元

心臓移植と栄養

坂本陽子
大谷朋仁
坂田泰史
大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学
 心臓移植は治療抵抗性心不全に対する最終的な治療選択肢である。日本における心臓移植後の長期生存率は良好な一方で、年々長期化する待機期間のために移植にたどり着く前に、心不全そのものの進行や感染などの合併症により、全身状態が悪化する症例も少なくなく、大きな課題となっている。もともと心不全ではカヘキシーが進みやすいことが知られており、心不全の進行や合併症などの侵襲に伴い栄養状態は容易に悪化することから、適切な栄養管理が重要である。また心臓移植後も、免疫抑制剤内服に伴う注意や動脈硬化危険因子の管理は必要であり、生涯にわたる栄養管理が重要である。心臓移植に至るまで、また移植後の栄養療法のそれぞれについて、現在までの知見に加え、当院での取り組みも含めて概説する。
  • 治療抵抗性心不全
  • 移植待機
  • 必要エネルギー
  • 体格指数(BMI)
  • 左室補助人工心臓(VAD)
  • 多職種連携

肝臓移植と栄養

海道利実
聖路加国際病院 消化器・一般外科
 肝移植患者の多くは低栄養や体組成異常を有し、二次性サルコペニアの状態にある。我々は、臨床現場のデータ分析により、術前低栄養や低骨格筋量が移植後予後不良因子であることを初めて明らかにした。さらに術前低骨格筋量症例であっても、周術期栄養療法により予後が向上することを報告した。そこで、正確な術前栄養評価と適切な周術期栄養リハビリテーション(以下リハビリ)管理が予後向上のために大切であるとの考えに基づき、入院時に体組成を含めた栄養評価を行い、個々の栄養状態に応じたオーダーメード型周術期栄養リハビリ介入を開始した。さらに、骨格筋量・筋肉の質・内臓脂肪肥満に着目し、これら体組成因子を考慮した新たな移植適応を樹立・運用し、積極的な周術期栄養・リハビリ介入を行った。その結果、移植後1年生存率99%と術後短期成績がきわめて良好となり、もはや京都大学においては肝移植はハイリスクからローリスクな医療になった。
  • 肝移植
  • 周術期栄養療法
  • サルコペニア
  • リハビリテーション
  • 体組成異常

腎移植と栄養

吉川美喜子
京都府立医科大学 移植・一般外科
 慢性腎臓病(Chronic kidney disease:CKD)や末期腎不全(End stage renal disease:ESRD)は、生命予後不良疾患であるのはもちろん、栄養不良のリスクが高い病態でもある。腎移植はそのような低栄養状態の改善が可能な治療法だが、適切な食生活を継続しなければ移植腎予後や生命予後の悪化につながるため、栄養状態、食行動、体組成の観察と、栄養指導・介入を移植前から外来維持期に渡って継続することが望ましい。また生体腎移植ドナーも健康維持のため栄養療法を行う必要がある。この章ではCKD/ESRD の栄養状態の特徴、腎移植レシピエント・生体腎移植ドナーの栄養療法に関して言及する。
  • 腎移植
  • Protein energy wasting
  • CKD-T

造血幹細胞移植患者に対する栄養管理

金 成元
国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 造血幹細胞移植科 外来医長
 造血幹細胞移植患者に特化した栄養管理に関するガイドラインは存在せず、各医療機関で様々な栄養管理が行われている。移植前の栄養不良は移植後アウトカムの悪化と関連した。主たる栄養サポートは経静脈栄養だが、投与カロリー設定、血糖管理、脂肪乳剤併用が重要である。生理的な栄養摂取を重視し、経鼻胃管等を用いた経腸栄養が造血幹細胞移植領域でも徐々に導入され、アウトカムの改善や医療経済学的な効果に加え、日常的に経腸栄養を実行する上での障壁を克服する工夫についても示されている。腸内細菌叢の多様性を維持することの重要性が造血幹細胞移植患者においても示され、経腸栄養の重要性がさらにクローズアップされている。好中球減少期に提供する食事については様々な議論がある。血液がんサバイバーに対する栄養管理にも注意を払うべきである。移植までの期間の栄養サポート強化、経腸栄養の安定実施の工夫に加え、新たな概念を導入した経腸栄養剤の開発などにより、合併症リスクがさらに低下し、血液がん治癒の可能性が一層高まることに期待したい。
  • 造血幹細胞移植
  • 血液がん
  • 経静脈栄養
  • 経腸栄養
  • 低菌食
  • 腸内細菌叢

栄養 Vol.36 No.4

「心疾患と栄養」

  • 堀田幸造
  • 中山寛之
  • 谷口良司
  • 佐藤幸人
  • 宮川尚子
  • 岡村智教
  • 小笹寧子
  • 木田圭亮
  • 鈴木規雄
  • 細田 徹

急性・慢性心不全における栄養介入

堀田幸造
中山寛之
谷口良司
佐藤幸人
兵庫県立尼崎総合医療センター 循環器内科
 心不全患者に対する治療アプローチとして栄養障害が注目されている。慢性心不全の栄養管理においては、従来の塩分制限は重要であるものの、低栄養が心不全に悪影響を及ぼすことが分かってきており、必要なカロリーや栄養素を効率的に摂取することが重要であるといえる。急性心不全の栄養管理においては、確立したエビデンスはないものの、栄養障害は早期に進行すると考えられ早期の適切な栄養介入が必要不可欠である。慢性心不全・急性心不全ともに病態は複雑であり、基本的な心不全加療・早期のリハビリ・適切な薬剤投与に加えて適切な栄養介入が必要であり、医師や栄養士がそれぞれ単独で栄養管理を行うことは困難である。安全かつ効果的な栄養管理には、医師、看護師、栄養士、理学療法士、薬剤師など多職種協働による多面的なアプローチが必要である。
  • 塩分制限
  • 低栄養
  • 多職種介入
  • 早期経口摂取
  • 早期経腸栄養
  • permissive underfeeding

循環器疾患と食生活

宮川尚子
岡村智教
慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学
食生活は内容によって循環器疾患の危険因子にも防御因子にもなりうることが、多くの疫学研究から明らかになっている。脂質やたんぱく質のうち、飽和脂肪酸は循環器疾患のリスクを高め、魚に多く含まれるn-3 系不飽和脂肪酸や植物性たんぱく質は循環器疾患の発症に予防的に働くことが報告されている。一方、炭水化物から摂取するエネルギー割合は低すぎても高すぎても死亡リスクが高くなる。  食塩は循環器疾患の主要な要因である血圧を上昇させて循環器疾患リスクを高め、反対に野菜や果物は、カリウムなど含まれる様々な栄養素の機能が複合的に作用して高血圧や循環器疾患のリスクを低下させる。これらの循環器疾患に関連する食品を組み合わせて摂取する、健康的な食事パターンをスコア化した食事指標を用いた検討では、指標の遵守度が高いほど循環器疾患リスクが低下していた。食事内容の改善により循環器疾患の予防が期待できるため、摂取する食品の内容や量を適切に選択することが大切である。
  • 脂質
  • たんぱく質
  • 炭水化物
  • 野菜・果物
  • 食塩
  • 食事パターン
  • メタボローム

心臓リハビリテーションと栄養

小笹寧子
京都大学 医学部附属病院 循環器内科
近年、食事パターンや食品が心血管疾患の発症および病態と関わっていることを示すエビデンスが急速に増加している。心血管疾患患者に望ましい食事パターンとして、Vegan食、DASH 食、AHA 食、地中海式食、日本食などが示されているが、いずれも一般的なアメリカ食と比較して果物・野菜・豆類・全粒穀物を豊富に含む食事パターンである。通常型心臓リハビリテーションではAHA 食を用いた食事療法が行われるが、2011年よりアメリカで健康保険の適応となっている集中教育型心臓リハビリテーション(Intensive Cardiac Rehabilitation)では、動物性食品を全く含まない未加工植物性食品を主体とするVegan食の食事療法が行われており、心血管疾患患者に対する治療効果が高いことが知られている。日本人には動物性食品含有量が少ない未加工植物性食品を中心とする伝統的な日本食が身近であることから、日本食(The Japan Diet)が推奨される。本稿では、食事パターンや食事内容と心血管疾患のエビデンスを概説し、心血管疾患を有する患者の理想的な食事療法を提案する。
  • 心臓リハビリテーション
  • 心血管疾患予防
  • 食事パターン

GLIM基準と心不全診療

木田圭亮
聖マリアンナ医科大学 薬理学
鈴木規雄
聖マリアンナ医科大学 循環器内科
GLIM 基準は世界初の低栄養診断基準で、2018 年に公開された。日本の循環器領域では、2021年改訂版心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインで初めて取り上げられた。GLIM 評価基準による栄養評価は、①低栄養スクリーニング、②栄養アセスメント、③低栄養診断のアルゴリズムによってなされる。心不全患者においても、GLIM 基準を活用し、早期診断、早期介入が求められている。そのためには、多職種でのチーム医療、心臓リハビリテーションが大いに活躍できる場と考える。そして、循環器領域ではまだ良く耳にする、「低アルブミン血症のため低栄養です」。こちらについては、今回の心リハのガイドラインにおいても、血液中のアルブミン、すなわち内臓たんぱく質貯蔵量による栄養評価は、炎症、体液量増加による血液の希釈など、疾患重症度を反映し、単独では栄養状態を示す指標にならないと明記されていることを知っておくべきである。
  • GLIM基準
  • 心不全
  • 低栄養
  • フレイル
  • サルコペニア
  • アルブミン

循環器病対策推進基本計画の概要

細田 徹
榊原記念病院 総合診療部
2019 年末に脳卒中・循環器病対策基本法が施行された。日本では平均寿命と健康寿命の差が10 年程度あり、循環器病の予防と克服が喫緊の課題である。基本法には①循環器病の予防・啓発、②診療提供体制の整備、③研究の推進という理念があり、実現のために循環器病対策推進基本計画が制定され、各都道府県の実情に合わせた循環器病対策推進計画が設定されている。脳卒中・循環器病の特徴として、栄養摂取や運動といった生活習慣の影響が大きく、発症後の診療費や介護負担が大きいため、健診システムの再構築も視野に入れた予防・啓発活動の進展が望まれる。我が国では高齢化と共に予備能力の低下したフレイルの患者が増加し、循環器病の再発防止の観点から多職種による包括的リハビリテーションが行われている。がん対策基本法により悪性腫瘍の臨床や研究が発展したのと同様、脳卒中・循環器疾患の臨床・研究が進歩し、健康寿命が延伸することを期待したい。
  • 循環器病対策推進計画
  • 一次・二次・三次予防
  • 包括的心臓リハビリテーション
  • フレイル
  • 肥満パラドックス

栄養 Vol.36 No.3

「呼吸器疾患と栄養」

  • 海塚安郎
  • 藤田幸男
  • 吉川雅則
  • 岡田 悟
  • 井上匡美
  • 首藤 剛
  • 亀井竣輔
  • 首藤恵子

挿管を伴う急性呼吸不全症例の栄養療法

海塚安郎
製鉄記念八幡病院 救急・集中治療部
 急性呼吸不全は、各種病因により肺酸素化障害が発生し、呼吸管理を必要とする病態である。重症例では、原疾患の治療と並行して挿管呼吸管理を含めた全身管理が必要となる。従来の呼吸、循環、輸液・電解質管理に加え、適切な代謝・栄養管理を行うことで、免疫能維持、感染性合併症の発生率減少ならびに、早期リハビリテーションとの共同により筋量および身体機能維持が期待さる。これは、PICS(Post intensive care syndrome)予防の一端を担うと期待される。  急性期の栄養介入では、呼吸不全の重症度、病態、実施されている管理法を理解した上で、栄養療法を提言することが重要であり、実際的である。実施する栄養療法について、NST およびICUスタッフを含めた多職種で了解、納得できる提言が望ましいことは言うまでも無いことである。  その前提で本稿では、まず急性呼吸不全ならびに人工呼吸管理の実際について概説した。次に実際に挿管人工呼吸管理が栄養療法に影響する問題点を挙げ、その対策について解説した。さらに、侵襲ならびに呼吸不全がもたらす生体反応、それによる栄養障害の進展についてまとめた。最後に、挿管呼吸不全症例における栄養療法の実際について要点、注意点をまとめ、参考のために自験例を提示した。
  • 挿管呼吸管理
  • 入院時栄養評価
  • 腸管管理
  • 早期経腸栄養
  • PICS(Post intensive care syndrome)
  • 早期リハビリテーション

慢性呼吸不全と栄養

藤田幸男
奈良県立医科大学呼吸器内科学講座
吉川雅則
奈良県立医科大学附属病院栄養管理部
 肺での呼吸の働きは、大気中から酸素を血液に取り込み炭酸ガスを排泄することであるが、この肺の本来の働きを果たせなくなり、血液中の酸素量が一定基準より低下した状態を呼吸不全という。厳密には、動脈血中の酸素分圧が60mmHg 以下になることを呼吸不全と定義しており、二酸化炭素分圧の増加を伴わない場合(45mmHg 以下)をI 型呼吸不全、二酸化炭素分圧の増加を伴う場合(45mmHgをこえる)をII 型呼吸不全と呼ぶ。そして、呼吸不全が1か月以上続く状態が慢性呼吸不全である。慢性呼吸不全を引き起こす呼吸器疾患には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎、肺結核後遺症、肺癌などがある。本稿では、慢性呼吸器疾患のなかでも体重減少の頻度が高いCOPDを中心に疾患概念と栄養障害について述べ、COPD以外の疾患としては、間質性肺炎や抗酸菌感染症、肺癌の栄養障害について概説する。
  • 慢性呼吸不全
  • 慢性閉塞性肺疾患
  • 間質性肺炎
  • 抗酸菌感染症
  • 肺癌
  • 栄養障害

肺癌と栄養

岡田 悟
京都府立医科大学大学院 医学研究科 呼吸器外科学
井上匡美
京都府立医科大学大学院 医学研究科 呼吸器外科学
免疫チェックポイント阻害薬の登場やロボット支援下手術の導入により、肺癌の診療体系に大きなパラダイムシフトが起きる中、古くて新しいテーマである“ 栄養”も注目されている。肺癌患者の栄養状態の評価には、Body mass index (BMI)やサルコペニアなどの骨格指標、血清アルブミンと末梢血総リンパ球数から算出されるPrognostic nutritional index (PNI)などの血液生化学指標によるバイオマーカーが有用である。近年、治療前の低栄養状態は、外科治療において術後合併症の危険因子であり、再発を含めた長期生存の悪化にも関連していることが報告されている。一方で、肺癌外科治療における栄養療法のエビデンスは十分ではなく、至適な介入対象の選択や介入方法の決定は今後の課題である。呼吸器外科医の立場から、肺癌診療における栄養状態の評価と意義、栄養療法、今後の展望について概説する。
  • 肺癌
  • 術後合併症
  • 予後
  • がん悪液質
  • 栄養

閉塞性肺疾患における亜鉛調節とスプライススイッチ異常

首藤 剛
熊本大学大学院生命科学研究部附属グローバル天然物科学研究センター 准教授
亀井竣輔
Research scholar, Center for Inflammation, Immunity & Infection,Institute for Biomedical Sciences, Georgia State University
首藤恵子
崇城大学薬学部薬理学研究室 講師
 気道上皮におけるイオン輸送は、気道分泌液の量や質を調節することで、気道粘液の産生や外界からの異物排除などの生体恒常性維持にはたらく重要な機構である。そのため、気道上皮でのイオン輸送の崩壊は、致死的な粘液貯留や肺の気腫化を伴う閉塞性肺疾患など、多くの呼吸器疾患の発症や病態増悪に関与する。閉塞性肺疾患は、慢性気道炎症や過剰な粘液貯留、およびこれらの症状に伴う気道閉塞を主徴とする難治性の呼吸器疾患の総称である。著者らは、粘液貯留・肺気腫・呼吸機能障害を安定的に呈する閉塞性肺疾患モデルマウスの肺組織やヒト閉塞性肺疾患モデル気道上皮細胞における亜鉛の細胞内濃度が顕著に減少し、そのことが、閉塞性肺疾患時に特徴的な遺伝子発現変化を惹起することを明らかにした。また、閉塞性肺疾患の細胞内亜鉛量の減少には、亜鉛トランスポーターZIP2の発現調節異常が関与することも明らかにした。本稿では、閉塞性肺疾患における細胞内亜鉛やそのトランスポーターの調節機構の重要性についてご紹介したい。
  • 閉塞性肺疾患
  • CFTR
  • ENaC
  • ZIP2
  • スプライシング異常
  • モデルマウス

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栄養 Vol.36 No.2

「免疫と栄養」

  • 森田直樹
  • 竹田潔
  • 新開省二
  • 川島忠臣
  • 下条直樹
  • 橋詰直樹
  • 田中芳明

乳酸菌および乳酸菌由来代謝産物による腸管免疫制御の新知見

森田 直樹
東京大学定量生命科学研究所 免疫感染制御研究分野
竹田 潔
大阪大学大学院医学系研究科・免疫制御学講座
私たちの腸管管腔中には10 兆を超える細菌が腸内細菌叢と呼ばれるコミュニティーを作り、私たちと共生している。これまで腸内細菌は食事由来の食物繊維を分解することで産生される短鎖脂肪酸の産生を介して宿主のエネルギー源を補助的に供給することが主要な役割だと考えられてきた。しかしながら、近年の研究からこれら腸内細菌が私たちの生態恒常性維持に重要な役割を持つことが明らかになり始めた1)。共生している腸内細菌に加えて、私たちは古くから健康に良いと考えられる乳酸菌を含む食事を摂取する食習慣が文化圏を問わず未だ存在している。近年の研究でこれら乳酸菌がどのような分子メカニズムで私たちの健康に寄与しているかも明らかとなりつつある。食事由来の乳酸菌のみならず管腔内には多くの乳酸菌が共生しており、これらも私たちの健康維持に重要な役割を担うことが示唆されている。本稿では筆者らが明らかにした乳酸菌由来の乳酸およびピルビン酸を介した腸管恒常性の維持機構に加えて、近年の腸管免疫領域における乳酸菌および乳酸菌由来代謝産物の新たな知見に関して概説する。
  • 乳酸菌
  • 腸内細菌
  • 粘膜免疫

乳酸菌B240と粘膜免疫

新開 省二
女子栄養大学教授(前東京都健康長寿医療センター研究所副所長)
ヒトにとっての外来抗原は、主に食事や呼吸に伴って体に入り、消化管や呼吸器の粘膜面を介して体内に侵入することから、粘膜が持つ免疫機能(これを粘膜免疫と称す)を適切に保持・強化することは、生体防御の観点から重要である。粘膜免疫の構成要素には、粘膜の絨毛運動、ムチンなどの粘液物質もあるが、最も重要なのは分泌型IgA(SIgA)抗体と考えられている。粘膜のSIgA 抗体は感染防御や抗アレルギーに大きく寄与する生体防御因子ということができる。大塚製薬(株)では、すでに150 株の乳酸菌の中からin vitro スクリーニングによってSIgA 抗体産生誘導能が最も高いLactiplantibacillus pentosus ONRICb0240(乳酸菌B240)を特定していた。筆者は、大塚製薬(株)から乳酸菌B240を用いたヒト試験(共同研究)の依頼があり、二つの臨床試験を主導した。その結果、乳酸菌B240を継続摂取することにより、ヒト唾液中のSIgA 抗体分泌能が高まること、さらに風邪罹患に対する予防効果が見られることを明らかにした。本稿ではその二つの臨床試験を詳しく紹介するとともに、乳酸菌B240が粘膜免疫を強化するメカニズムについて考察する。
  • 乳酸菌B240
  • 粘膜免疫
  • 分泌型IgA抗体
  • 風邪予防
  • ムチン

乳酸菌Pediococcus acidilactici K15 の免疫調節作用

川島 忠臣
キッコーマン株式会社 研究開発本部
下条 直樹
千葉大学予防医学センター
乳酸菌が腸管免疫を介して免疫機能に影響を与えることは広く知られるようになった。またこの20 年で加熱殺菌された乳酸菌がヒトの免疫調節作用に影響を与えることが多く報告されてきた。乳酸菌Pediococcus acidilacticiK15(以下、K15)は樹状細胞に対しIFN-βを強く誘導することで選抜された。ヒト単球由来樹状細胞を用いた評価により、K15菌体内の2 本鎖RNA がIFN-βやIL-12を誘導することが明らかとなった。一方でヒトプラズマサイトイド樹状細胞に対してはIFN-αを強く誘導した。また、乳酸菌は分泌型IgAの産生を誘導することが知られており、ヒト末梢血単核細胞を用いた評価においてK15は強いIgA 産生誘導作用を有することが確認された。実際に187名の3-5歳の幼児を対象とした臨床試験において、K15 摂取群で有意に唾液中総IgA値が高く維持された。K15 の多様な自然免疫の活性化により、感染に対するリスクを軽減する効果が期待できる。
  • Pediococcus acidilactici K15
  • IgA
  • IFN-β
  • IFN-α

腸内細菌叢と免疫

橋詰 直樹
久留米大学医学部 外科学講座小児外科部門
国立研究開発法人国立成育医療研究センター 臓器・運動器病態外科部 外科
田中 芳明
久留米大学医学部 外科学講座小児外科部門
久留米大学病院 医療安全管理部
腸内細菌叢は、新生児期から成人期までに多くの因子に影響を受けながら変動し形成される。腸内細菌叢は、腸管管腔に存在する病原性細胞やウイルスの腸管上皮細胞への結合・進入の防止、病原性細菌から産生される毒素の中和を担う免疫因子として働く。その免疫作用は上皮間リンパ球の分化増殖やIgA 陽性細胞を誘導させることが知られており、腸内細菌叢が宿主の上皮バリアの強化や免疫システムの構築を行う。また病原性微生物との資化物の競合や、短鎖脂肪酸の産生によるpHの低下により、病原性細菌の定着を阻害する。臨床においては、腸内細菌叢の是正を目的としてプロバイオティクス・プレバイオティクスが用いられるが、消化管疾患のみではなく、アレルギー性疾患など免疫システムの異常にもその有効性が報告されている。本稿では腸内細菌叢による免疫機構および臨床におけるプレバイオティクス・プロバイオティクスによる腸内細菌叢における影響をふまえ述べる。
  • 腸内細菌叢
  • 消化管
  • プロバイオティクス
  • プレバイオティクス

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栄養 Vol.36 No.1

「脳と栄養」

  • 髙橋愼一
  • 野坂直久
  • 松永政司
  • 大日向耕作
  • 綾部達宏

脳とグルコース

髙橋愼一
埼玉医科大学国際医療センター 脳神経内科・脳卒中内科(教授)
慶應義塾大学医学部 生理学教室(特任教授)
ヒトの脳機能を支えるエネルギー源はグルコースのみである。成人の脳は体重の約2%を占めるが、全身で消費されるグルコースの約25%を消費する。グルコースは酸素を利用してほぼ100%分解され、その過程で産生されるATPが脳の情報処理機能を支える。グルコースも酸素も脳内に貯蔵はなく、常に脳血流によって供給される。脳の毛細血管はアストロサイトの足突起に包まれており、グルコースの供給を受けやすいのはニューロンよりむしろアストロサイトである。アストロサイトの他方の足突起はニューロンのシナプスを包み込んでおり、ニューロトランスミッターであるグルタミン酸の回収を行うが、同時にATPを消費する。アストロサイトがグルコースを解糖系で分解し得られるATPを利用し、産生された乳酸がニューロンに供与されTCA回路でATPを産生するモデルは完全には立証されていないが、アストロサイトのグルコース消費が、ニューロンの機能維持に重要な役割を果たしている証左が蓄積している。
  • グルコース
  • 酸素
  • 乳酸
  • ニューロン
  • アストロサイト

認知症とMCT

野坂直久
日清オイリオグループ株式会社 中央研究所
認知症、とくにアルツハイマー病(AD)では認知機能やグルコース代謝などの脳機能低下により中核症状や行動・心理症状が生じる。この機能低下や症状の改善が期待される食事成分の一つとして中鎖脂肪酸油(MCT)がある。MCTを摂取すると中鎖脂肪酸やその代謝物であるケトン体が血中に増加し、脳の活動に必要なグルコースの代替エネルギー源として供給されるだけでなく、基礎研究では中鎖脂肪酸やケトン体が神経細胞に作用物質として働くことで脳のグルコース代謝を改善させる可能性が示されている。さらに臨床研究では、疫学研究で中鎖脂肪酸の摂取量増加が日本人健常高齢者の認知機能低下リスクを軽減する報告があり、症例研究でAD罹患者の中核症状や行動・心理症状の改善が観察されており、介入研究で軽度認知障害者に加えAD罹患者の認知機能検査得点の改善が報告されている。
  • アルツハイマー病
  • APOE ε4
  • グルコース代謝
  • 中鎖脂肪酸

脳と核酸栄養

松永政司
NPO法人遺伝子栄養学研究所理事長 工学・医学博士
我々は栄養因子としての核酸の役割に40年間にわたり研究を行い、核酸には様々な生理機能(細胞賦活作用、免疫賦活作用、抗アレルギー作用、腸内フローラの改善作用、脂質代謝の改善作用、鉄の吸収促進作用、記憶力の改善作用など)があることを明らかにした。本稿では特に核酸による脳の健康について焦点を当て他の研究機関のデータを含め概説する。 まずはじめに核酸はヌクレオシドトランスポーターを介してヌクレオシドとして消化吸収され脳に到達することを示す。次いで核酸が神経刺激伝達物としての機能、神経成長因子としての機能、脂質改善作用、記憶力の改善作用などがあることを示す。最後にサケ白子核タンパク(DNA・プロタミン)に中枢神経細胞の遅発性神経細胞死を抑制する効果があることを示す。アルツハイマー病では神経細胞死という病理変化が起こることからサケ白子核酸がアルツハイマー病の予防に一定の効果があることが示唆される。
  • 核酸
  • 記憶
  • ヌクレオチド
  • 神経細胞死

現代病としての認知症
~食による認知機能改善の可能性~

大日向耕作
京都大学大学院 農学系研究科 食品生物科学専攻 食品健康科学講座
綾部達宏
キリンホールディングス株式会社 キリン中央研究所
糖尿病が危険因子であり長寿により顕在化する認知症は現代病ともいえる。脳は、血液脳関門(BBB)が存在し物質の移動が制限され、また、体全体に占める割合が2%であるにも関わらず全エネルギーの1/4を要求する特殊な臓器である一方、疫学調査により糖尿病が認知症の後天的危険因子であることが判明し、脳機能が末梢環境に大きな影響を受けることが明らかとなっている。認知症は、神経変性が進行したステージを改善させるのは容易ではなく予防の重要性が指摘されている。したがって、予防に果たす食品の役割は大きいと考えられ、日々の食事で認知機能低下を予防できれば理想的である。そこで本総説では、高脂肪食摂取により認知機能が低下すること、および、この認知機能低下を予防する可能性がある植物性と動物性の食品素材について焦点をあて紹介する。
  • 認知症
  • 糖尿病
  • ホップ由来苦味成分
  • 牛乳ペプチド

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